Labor analgesia
当院の無痛分娩
無痛分娩とは
無痛分娩の目的は、出産の痛みをコントロールし、余計なストレスや恐怖を和らげ、より快適でポジティブな出産を体験してもらうことです。「無痛分娩」と呼ばれますが、何も感じない状態ではありません。陣痛や出産の痛みをすべて失くすのではなく、耐えられるくらいに抑えるようにします。それによって、リラックスした状態でお産をしていただければと思います。
当院の無痛分娩の特徴
1. 24時間無痛分娩に対応
⽇本で徐々に広がりつつある無痛分娩ですが、海外と較べるとまだまだ制限の多い部分もあります。医師不⾜のため計画分娩のみ、もしくは、日中・平日のみと時間制限を設けているも多い中、当院では2022年より24時間無痛分娩に対応できる体制をとっております。ただし、緊急対応やスッタフ不足等で無痛分娩できない時間がある場合がございます。詳しくはスタッフまでお尋ねください。
2.無痛分娩教室で事前にしっかり準備
当院で毎週木曜日に医師による無痛分娩教室を開催しています。無痛分娩の一般的な知識から当院で行う無痛分娩についてまで、事前にしっかり学ぶ機会を設けさせていただいております。また、いろいろな質問を自由にできますので、聞きたいこと・不安なことは何でもご質問ください。当院にまだ通院されていない方もご参加できます。
3.計画無痛分娩が可能
当院では事前に出産日を決めて行う計画無痛分娩を行っております。パートナーの仕事や育児の都合、陣痛に対する不安が強い場合、前回出産の進みが早かった、もしくは居住地が遠方等の理由で病院到着前に産まれてしまう心配がある等で選ばれる方がいらっしゃいます。ただし、必ずしも計画通り産まれないこともありますので、マイナス面等よく相談した上で日程等を決定します。
4.自然に陣痛がくることを待ってから無痛分娩が可能
当院は24時間、深夜も土日祝も無痛分娩ができる体制をとっておりますので、いつ陣痛が始まったとしても必要な時に無痛分娩を開始することができます。ただし、上記にある通り、ただし、緊急対応やスッタフ不足等で無痛分娩できない時間がある場合がございます。詳しくはスタッフまでお尋ねください。
5.費用は麻酔を開始するまでかかりません。
当院では、無痛分娩を申し込んだ時点では一切お金がかかりません。ですので、実際に陣痛に耐えている途中に無痛分娩を行うか決めることができます。通院中の方には、無痛分娩にするか自然にお産にするか当日に決める方もいます。実際に陣痛を味わってみて思った以上につらかった場合や、痛くなってから何十時間もかかってしまうような難産になった場合のために申し込む方もいます。申し込みをしても、実際にお薬を使わなかった場合はお金がかかりませんので、ご安心ください。
6.硬膜外麻酔による無痛分娩を行っています。
多くの国で無痛分娩といえば、その第一選択は「硬膜外鎮痛法」といわれる方法で、当院でもこの方法を採用しています。日本産科麻酔学会によると、「硬膜外無痛分娩は鎮痛効果が強く、ひどい痛みをまったく感じずに分娩に至るお母さんがたくさんいます。 疲労が少なかった、産後の回復が早かったという感想もよく聞かれます。 また一般にお産の痛みに耐えているときは、お母さんから赤ちゃんに届く酸素が減る」といわれています。
無痛分娩の注意点
リスク
上記の通り、硬膜外麻酔による無痛分娩を行いますので、それに伴うリスクが生じます。軽症なものから、極めて稀ですが、重篤なものまであります。例えば、全脊髄くも膜下麻酔で自発呼吸が停止する場合や、長く続く神経障害が残る可能性も0ではありません。詳しくは無痛分娩教室で説明致します。
無痛分娩ができないケース
下記に当てはまる妊婦さまは無痛分娩ができない場合があります。事前に血液検査で確認を行いますが、出産直前に判明した場合でも無痛分娩を中止することがあります。
- 出血傾向や血液凝固障害がある場合
- 穿刺部位や全身の感染がある場合
- 極度の脱水や出血などで循環動態が不安定な場合
- 進行性の脊髄病変がある場合
- 心疾患の一部(末梢血管拡張が望ましくない場合)
- 麻酔薬にアレルギーがある場合
無痛分娩の実際
❶ 無痛分娩の開始時期
陣痛が周期的に来て、分娩の進行がみられたタイミングで硬膜外麻酔を開始します。他に、妊婦さまが希望するタイミングで麻酔を開始することもあります。
❷ 姿勢の保持
背中の骨の間隔を広げるために、横向きに寝た姿勢(もしくは座った姿勢)で背中を丸めます。そうすることで硬膜外カテーテルがよりスムーズに挿入できます。
❸ 麻酔薬の投与
硬膜外カテーテルの留置の痛みをできるだけ軽減するため、皮膚に痛み止めの注射を行います。
❹ 硬膜外カテーテルの留置
腰のあたりから硬膜外腔に、細くてやわらかいカテーテルを挿入します。
❺ 麻酔薬の注入
硬膜外腔に入れたカテーテルから鎮痛麻酔薬の注入を始めます。
❻ 麻酔効果の判定
定期的に、陣痛の痛みを確認します。痛みが強いときは、適宜麻酔薬を追加します。逆に、お腹の張りが全然感じないくらいに麻酔が十分効いているときや、分娩の進行具合によって、一時的に麻酔を止める場合もあります。
❼ 硬膜外カテーテルの調整
麻酔効果が不十分な場合は、カテーテルの位置調整や再挿入を行うことがあります。まれに、位置調整や再挿入を行ったとしても期待するほどの麻酔効果を得られない状態が続くこともあります。
❽ 無痛分娩の終了
分娩が終わり、会陰縫合などの処置も終了したらカテーテルを抜きます。頃合いをみて、歩行や食事を再開します。授乳への影響はなく、麻酔を使わなかったときと同じように授乳することができます。
無痛分娩中の過ごし方
食事
麻酔の使用中は食事ができません。水やお茶、清涼飲料水は飲むことができます。飲んでもよいものであるかを事前にスタッフに確認してください。
歩行
麻酔の使用中は歩行ができません。足の感覚や動きが鈍くなるため、歩行時に転倒してしまう可能性があるためです。そのため、麻酔使用中は基本的にベッド上で過ごしていただきます。
排尿
麻酔薬の使用中はベッド上安静となるのでトイレに行くことができません。他にも、麻酔による影響で尿が出づらいことがあります。必要に応じて、細い管で導尿します。その際、麻酔が効いているので痛みはありません。
妊婦さまの体勢
下半身の感覚や動きが鈍くなるため、神経の障害や皮膚のトラブルが起こることがあります。長時間同じ体勢にならないよう、スタッフがからだの向きを変えるお手伝いをします。
ベッドサイドモニターの装着
麻酔使用中、妊婦さまの状態を常にチェックするため、頻回に血圧などのバイタルサインを計測するモニターを付けます。
胎児心拍陣痛モニターの装着
赤ちゃんの状態を常に確認するため、麻酔開始後から生まれるまで胎児心拍陣痛モニターを付けます。
起こりえる副作用や合併症
分娩の遷延
麻酔の影響により、お産の進行がゆっくりとなることがあります。それに伴って、子宮収縮薬による補助や器械分娩(吸引分娩)が必要となる頻度が高くなります。ただし、無痛分娩を行うことによる帝王切開術の可能性は変わらないと言われています。
胎児心拍数の一時的な低下
麻酔薬の影響や血圧低下により、無痛分娩を開始した直後に胎児の心拍数が低下することがあります。酸素の投与など適切に対応することで、赤ちゃんに影響することはほとんどありませんが、胎児心拍数が回復しない場合には、緊急帝王切開術を行うことがあります。
血圧低下
麻酔の影響で妊婦さまの血圧が一時的に下がることがあります。点滴を増やす、血圧を上げる薬を使用するなどで対応し、妊婦さまや赤ちゃんに問題がないようにしていきます。
穿刺部痛
硬膜外麻酔カテーテルの留置部位に痛みを感じることがあります。一時的なものが多いですが、長く続く場合は検査等行います。
掻痒感
麻酔薬の影響で、からだにかゆみを感じることがあります。多くの場合、我慢できないようなかゆみではありませんが、つらい場合は薬剤などで対応します。
発熱
麻酔薬の影響で、熱が出ることがあります。からだを冷やすクーリングを行います。他に、発熱の原因を調べるために採血などの検査が必要となる場合があります。
頭痛
硬膜外麻酔によって、1週間くらい頭痛が起きることがあります。
硬膜外カテーテルの遺残
硬膜外カテーテルが体内に残ることがあります。
極めてまれだが重篤な合併症
硬膜外血腫・膿瘍
硬膜外カテーテルを留置した周囲に血のかたまり(血腫)や膿のかたまり(膿瘍)を作ることがあります。カテーテルを抜いた後に足の痛み、しびれの増強、足に力が入りにくいなどの症状があります。
神経障害
無痛分娩のあと足にしびれや感覚異常が起きることがあります。多くは数日で消失しますが、まれに数ヵ月から数年単位で持続することがあります(無痛分娩との直接因果関係のない、分娩そのものに起因するものもあります)。
高位・全脊髄くも膜麻酔
硬膜外麻酔で使用するカテーテルがくも膜下に迷入し、麻酔が広範囲に効きすぎることがあります。麻酔使用の直後に、足が動かない、腕までしびれる、息が苦しいなどの症状が起こります。
局所麻酔薬中毒
麻酔薬の投与が多くなった場合や、血管への注入などが原因で起こります。麻酔薬の血中濃度が高くなりすぎることにより、舌や唇がしびれ、けいれん、意識障害などを起こすことがあります。
薬剤アレルギー・アナフィラキシーショック
薬剤に対するアレルギーが原因で、血圧低下や意識障害が起こることがあります。
有効性と不確実性
- 硬膜外麻酔を行うとほとんどの方は痛みがやわらぎます。しかしながら、麻酔効果には個人差があります。本人が期待するほどまで痛みが軽減しない場合があります。
- 状況によって(担当医師やスタッフ不在時、他に緊急対応時など)、無痛分娩ができないこともあります。そこで、分娩の日取りをあらかじめ計画し、自然な陣痛を待つかわりに陣痛誘発促進剤等を使用する、いわゆる「計画無痛分娩」を行う場合もあります。
- 急激に分娩が進行したときや、お産直前に硬膜外麻酔を希望するときなどに、強い痛みから麻酔のための姿勢を取れない場合があります。このような場合は、無痛分娩ができない可能性があります。
費用
当院での無痛分娩の費用は、通常の分娩費用に加え 100,000円(自費診療)になります。無痛分娩の麻酔効果が不十分であった場合も、無痛分娩費用は一律にかかります。無痛分娩の麻酔をしている時間が短い場合も長い場合も、深夜や休日であっても費用は変わりません。
当院の実績
当院では昨年度で254件もの無痛分娩出産の実績がございます。
分娩取扱実績:集計対象期間 2023-04-01 ~ 2023-03-31
・全分娩取扱数 683 件
・無痛分娩件数 254 件
無痛分娩に関わる助産師・看護師について
リスクを最小化するための取り組みも実施しております。
また、NCPR資格保有者が13 名在籍しており、万全を期してお産に臨んでおります。
JALA登録情報
下記の内容は分娩施設がJALAサイトに登録した情報を一覧表にしたものです。
当院の施設情報
JALAとは、The Japanese Association for Labor Analgesiaの略称で、和名では無痛分娩関係学会・団体連絡協議会と呼ばれています。
2017年に無痛分娩の重大な事故があり、マスコミ等で大々的に報道されました。再発防止の対策検討するため、厚生労働省が医療の専門家たちを含めたタスクフォースを結成。 今後も日本で安全な無痛分娩が行われるようにするため、厚生労働省をオブザーバーに医療団体6団体(公益社団法人 日本医師会、公益社団法人 日本看護協会、公益社団法人 日本産科婦人科学会、公益社団法人 日本産婦人科医会、公益社団法人 日本麻酔科学会、日本産科麻酔学会)で「JALA」設立した背景があります。